Best Soul Masters Vol.1 / Sam Cooke with The Soul Stirrers * 1996 Specialty・P-Vine Non Stop

田中角栄並みに聴衆を盛り上げたというサム・クック。NHKのSoul Deepシリーズでも50年代のサム・クックを軸にしたゴスペルからソウルへの発展は、我々日本人に理解し難いその“違い”を分かりやすく捉えてました。本とかでは読んでたけれど、映像付きで見て俄然説得力が増した黒人霊歌ゴスペルの実体。正直、バリバリの日本人である私などゴスペルでもR&Bでも同次元で聴いてたりしますが、実際本場アメリカでは両者に決定的な違いがあることを改めて痛感。音楽的形態だけで判断できないのがホンマです。奴隷制度から人種差別などの苦悩からアフロ・アメリカンの独特のコミュニティが生まれ、ゴスペルが誕生しそれを全人種向けに派生させたポップ・ミュージック=ソウルとなったことで我々も楽しめるようになったと思うとなかなか複雑な心境です。そう考えるとブラマヨ・ノイローゼ漫才みたいになってくるので、もう止めます。そんな事で大スターを目指し、支持の厚い黒人聴衆向けのゴスペル界から大ブーイング覚悟で脱出し、人種の垣根を越えたポップヒット“You Send Me”に至る直前までを綴った編集盤です。すでに変幻自在で独特の人を魅了してやまないアノ声が堪能でき、サムが特別な存在であったことがコノ時代でもよく分かります。この決断が絶大なる影響力を発揮し、後のポップ・ミュージックとしての黒人音楽の隆盛を招いたと思うと感慨深いです。
さて本盤の中身はゴスペル時代の大傑作「Touch The Hem Of His Garment」で最高の幕開け。この曲はじめ大半が名門ソウル・スターラーズとしての録音ですが、カルテットで盛り上げていくスタイルは実に熱く、聴衆が興奮しまくったというのも納得です。51年の初録音「Peace In The Valley」から「Must Jesus Bear This Cross Alone?」、「Come And Go To That Land」、「I'm So Glad」などゴスペルの醍醐味がしっかり味わえる素晴らしき録音。サムと共にリードをとるバリトンのポール・フォスターとの対比も絶妙で必要最小限のバッキングでの声力に平伏すこと必至です。また興味深いのが収録の56年のメロディが全く同じ「Wonderful」と「Lovable」。前者はザ・ソウル・スターラーズとしてのゴスペルですが、後者はサムがポップスとして初めて吹きこんだソロ曲。教会の反発を恐れてデイル・クックという名前で発売された曰くつきの曲です。後のKeen時代の雰囲気も感じる「Forever」や「I'll Come Running Back To You」なんかも歌う内容こそ世俗的な内容になりソフトで都会的な印象とはいえ、サムの魅力は変わりません。ポップ・ソウル・シンガーとしての風格さえ感じます。でもゴスペルとポップスの間で葛藤してたソウル・スターラーズとのゴスペル時代最後期の57年「Were You There?」、「Lord Remember Me」なんかの教会を意識したような荒っぽいシャウティングスタイルも飛び出す黒人向け録音には、やはりグッときます。エゲツないほどの説得力ある歌声はほんま唯一無二。真のパイオニアであったことが体感できます。
「 当時のリスナーを鷲掴みにしたサム・クック。これくらいの説得力で今の政治家にも頑張っていただきたいっ!」
The Soul Stirrers - Touch the Hem of His Garment
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